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ものづくりの記録

3Dプリンタ用引張試験機を作ってみた

  • FDM方式(熱溶解積層方式)3Dプリンタの出力品の強度を調べるため、引張試験機を作りました。
  • 図面、3Dデータ、製作過程をオープンソース化します。
  • ただし、ボール盤による金属加工を扱える人向けです。

※この記事は親記事「Adventurer3×ABSフィラメントで耐圧部品を作ってみた」から参照されています。

特徴および部品構成

  • 木工用バイスで引張荷重を与えます。
  • デジタルフォースゲージで引張荷重を計測します。最大500Nまで計測でき、ピークホールド機能により破断に至るまでの最大値(=引張強さ)を確認できます。
  • 伸び量は計測できません。
  • 部品の製作に3DプリントとMeviy板金加工を利用していますが、ボール盤で木工用バイスに追加工が必要です。

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準備

3Dプリンタ関係

  1. 3Dプリンタ FlashForge/Adventurer3 flashforge.co.jp

  2. ABSフィラメント flashforge.shop-pro.jp

金属加工用のツール

  1. ボール盤

  2. ステップドリル(Φ16以上) ※実際はΦ16のドリルを使用。オープンソース用に代替品として紹介します。 www.monotaro.com

  3. 鉄工用ドリル Φ3.3

  4. 鉄工用ドリル Φ7 ※実際は細身のステップドリルを使用。オープンソース用に代替品として紹介します。

  5. ハンドタップ M4 (上げタップ)

  6. ハンドタップハンドル

  7. ピン抜きポンチ ※実際は適当なΦ3の丸棒を使用。オープンソース用に代替品として紹介します。 www.monotaro.com

  8. 弓のこ & ステンレス用替え刃

  9. ケガキ針(千枚通しなど尖ったモノで代用OK)

  10. センターポンチ(オートセンターポンチが便利)

  11. ノギス

  12. 保護メガネ

部品

  1. デジタルフォースゲージ SF-500

  2. 木工用バイス TRUSCO/TMVD-180 www.monotaro.com

  3. ボルト・ナット類

No 仕様 数量
3-1 六角穴付きボルト M6×15 SUS 1
3-2 六角穴付きボルト M4×6 SUS 8
3-3 六角穴付きボルト M3×12 SUS 4
3-4 六角穴付きボルト M3×20 SUS 8
3-5 六角穴付き皿ネジ M3×25 SUS 8
3-6 六角ナット M6 SUS 2
3-7 六角ナット M3 SUS 20
3-8 平座金 Φ3 8

製作工程

1. 部品を3Dプリントする

脚とチャックを出力します。STLファイルをダウンロードできます。Adventurer3を使用する場合は、高強度出力が可能な出力要領『ABS-Hydro-01』を参照してください。

部品 3Dデータ 出力要領 数量
脚(右側) STLダウンロード ABS-Hydro-01に対し
時間短縮のため積層ピッチを
0.1mmへ変更。
ラフトマージン10mm。
底面のみグリッドサポート追加。
定着用のスティックのりを
プラットフォームへ塗布。
1
脚(左側) STL ダウンロード (同上) 1
チャックボディA STLダウンロード ABS-Hydro-01に従う 2
チャックボディB STLダウンロード ABS-Hydro-01に従う 2

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出力された左右の脚です。大型のABS出力品はラフトが浮きやすいです。底面の水平が出ていない場合は、紙やすり(60~100番程度)や平やすりで底面を研磨し、水平度を調整してください。
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出力されたチャックボディA/Bです。

2. Meviyで板金部品を手配する

Meviyは株式会社ミスミが提供するオンライン部品調達サービスです。
※利用にはミスミアカウントが必要です。

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手配費用を抑えるため、3つのブラケットを結合して一つの板金部品として手配します。

MeviyにアップロードできるSTEP形式のデータを用意しました。
>>>STEPダウンロード<<<

  f:id:neet2121:20200426235736p:plain Meviyでは3Dモデルから自動で加工情報に変換されます。今回のデータでは、1か所だけ誤ってタップ穴になってしまうため、通し穴に修正が必要です。

  f:id:neet2121:20200427003058p:plain 材料でSUS304を選択すると、自動見積は3180円(税抜き)でした。(今後、価格改定などで変更される可能性があります)

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納品後、弓ノコにステンレス用替え刃をセットし、結合箇所を切り離します。

3. 木工用バイスに追加工する

ここからはボール盤を使った金属加工ステージとなります。ボール盤は強力な工作機械ですが、扱い方を間違えれば非常に危険です。初めて扱う方は、可能であれば経験者の指導の元で作業するか、DIYボール盤を扱う内容を扱っている入門書を参考にしてください。

まずは加工しやすいように木工用バイスの固定側金口、可動側金口、ハンドルを分解します。
  f:id:neet2121:20200429030736p:plain スプリングピンを抜きます。ピン抜きポンチをハンマーで叩いて抜きます。
  f:id:neet2121:20200429030934p:plain Eリングは硬い板を当ててハンマーで叩くと抜けます。木工用バイスにちょうど良い鋼材の板が付属しています。(何に使う板なんでしょうか?)
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スプリングピンとEリングを外すと、3つの部品に分解できます。
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バイスの可動側金口に穴位置をケガキ針で書いて、センターポンチを打ちます。金口は鋳物のため凸凹があります。デジタルフォースゲージやブラケットが鋳物の凸凹と干渉しないか注意してください。
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M4の下穴をΦ3.3のドリルで加工します。深さは(上げタップを使用する場合)6mm以上必要です。
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下穴加工後にM4のタップを立てます。

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デジタルフォースゲージの検出軸が通る穴を加工します。軸の太さは6mmなので、7mm程度の穴径であれば軸は通ります。ただし、デジタルフォースゲージに微妙な段差(Φ15.5×2.5mm)があり、干渉除けのためΦ16のザグリを加工します。直径が大きな穴はステップドリルが便利です。

次はバイスの固定側金口に穴位置をケガいてポンチを打ちます。可動側金口の穴位置とズレないよう注意してください。
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固定側金口にはシャフトが圧入されており、ボール盤で加工する際に干渉してしまいます。そこでボール盤のヘッド部分をベース部分に対して90度回転させて使用します。重心のバランスが悪いので、ボール盤のベース部分を作業台に固定します。鉄工用ドリルΦ7を使用します。

4. 組み立てる

ここまでの工程で全ての部品が揃いました。分解されていた固定側金口、可動側金口、ハンドルを復旧します。Eリングとスプリングピンはハンマーで叩き入れます。

残りは構成部品の写真に従って組み立てていきます。
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5. 試験片を出力する

チャックの形状はJIS K 7139 『プラスチック−試験片』のA12試験片に最適化されています。水平方向にプリントした場合はデジタルフォースゲージのスペック500Nを超える場合があり、その場合は断面積が小さいA13相当の試験片(チャック部のみA12試験片に変更)を使用します。
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水平方向試験片をプリントする場合は3Dモデルにラフトをつけるだけで良いのですが、積層方向試験片は縦に細長すぎて安定したプリントが困難です。積層方向試験片は5個を並べて同時に出力する必要があります。それぞれのSTLデータをダウンロードできます。 f:id:neet2121:20200429124316p:plain

試験片 3Dデータ 出力要領
A12 水平方向試験片 STLデータ 例:ABS-Hydro-01
A13 水平方向試験片 STLデータ 例:ABS-Hydro-01
A12 積層方向試験片(5set) STLデータ 例:ABS-Hydro-01
ラフトマージンを10mmに変更します。

糸引きや表面の凹凸が大きい場合は、紙やすりで研磨します。 f:id:neet2121:20200429130544p:plain

使用方法

  1. 試験片の幅と厚さをノギスで計測し記録しておきます。
  2. 本体からチャックを取り外し、ボルトを緩めて試験片を挿入し、ボルトをしっかり締めて固定します。M6ナットを入れ忘れないよう注意してください。 f:id:neet2121:20200429124943p:plain
  3. デジタルフォースゲージの検出軸のM6ネジに片方のチャックを取り付けます。
    ネジは少し緩めておきます。 f:id:neet2121:20200429125018p:plainf:id:neet2121:20200429125034p:plain
  4. 反対側のチャックにM6六角穴付きボルトを取り付けます。
    ネジは少し緩めておきます。 f:id:neet2121:20200429125058p:plainf:id:neet2121:20200429125108p:plain
  5. デジタルフォースゲージの電源を入れ『SET』ボタンを押してPEAKホールドモードに変更します。 f:id:neet2121:20200429125708p:plain
  6. チャックに荷重がかかっていないことを確認して、『ZERO』ボタンを押してゼロ点をセットします。 f:id:neet2121:20200429125721p:plain
  7. 木工用バイスのハンドルを半時計方向にゆっくり回し、試験片に少しずつ引張荷重を与え、試験片を破断させます。
    ※破断した試験片が飛んでくる場合があり、必ず保護メガネをつけてください。 f:id:neet2121:20200429125223p:plain
  8. 試験片が破断するまでの最大荷重から断面積を割り、引張強度を算出します。
    引張強度[MPa]=最大荷重[N]/(幅[mm]×厚さ[mm])

試験の様子です。

おわりに

FDM方式3Dプリンタでは、造形物の評価は強度ではなく美観や造形可否で語られることが多いです。使ってみて壊れるか壊れないかでしか判断できないため仕方ないのですが、結果として3Dプリンタを強度部材へ適用する際のハードルが高くなってしまっています。もし手軽に定量的に強度を評価する方法があれば、3Dプリンタを通して見えるモノづくりの世界は違ったものになるかもしれません。今回の記事の内容は、FDM方式は強度が出ないから…と諦めるのではなく、目の前の道具を120%活用できる方法を探る取り組みの1つです。