3Dプリント部品を固定していたネジがいつの間に緩んでいる現象がありますが、原因は「クリープ」かもしれません。フィラメント別の耐クリープ特性を簡易的な試験で比較してみました。
クリープとは
クリープとは、応力が長時間加わることで、経年的に変形が進行する現象です。ネジ締結などで変位が固定されている場合は、変形しない代わりに応力が低下するため、応力緩和と呼ばれます。
樹脂の場合は特に室温でのクリープ(応力緩和)が大きく、ネジが緩む問題となります。
比較対象
耐クリープ特性が良いとされるポリカーボネート(PC)と、その他のフィラメントの特性を比較しました。
材質 | 型番 | メーカー |
---|---|---|
PC | PC-F58 | Flash Forge |
ABS | ABS-F16 | Flash Forge |
PLA | PolyLite PLA | Polymaker |
PETG-CF | RS PRO CARBON-P | RS PRO |
試験方法
正規のクリープ試験装置は、一定荷重をかけて伸びの時間変化を計測できる計測装置ですが、今回はネジの緩みに着目し簡易的な方法で試験しました。
円筒状のテストピースを3Dプリンタで出力しました。
ステンレスM6ボルト・ナットを平座金を介して取り付けました。
トルクレンチを用い、ステンレスM6ボルトの標準締付トルクとして、5.2N・mで締結しました。(締結、分解を2,3回繰り返して締付トルクを安定させました)
始めよう。 pic.twitter.com/rExg4aqkja
— Nii (@neet2121) 2021年8月8日
恒温層はありませんが、自作した発酵器に置いて温度を一定に保ちつつ、一定時間保持しました。
保持温度 | 保持時間 |
---|---|
30℃ | 4 day |
ボルトを緩める際のトルク(戻しトルク)を計測しました。
戻しトルク。 pic.twitter.com/8oBwYovxyj
— Nii (@neet2121) 2021年8月12日
結果
試験片No. | 材質 | 戻しトルク [N・m] |
---|---|---|
1 | PC | 2.65 |
2 | PC | 2.95 |
3 | PC | 2.99 |
4 | ABS | 2.2 |
5 | ABS | 2.49 |
6 | ABS | 2.52 |
7 | PLA | 1.16 |
8 | PLA | 1.04 |
9 | PLA | 1.16 |
10 | PETG-CF | 1.78 |
11 | PETG-CF | 1.93 |
12 | PETG-CF | 2.12 |
まとめ
- 各テストピース3個で計測を行いましたが、バラつきが小さい結果となり、計測結果に妥当性がありそうです。
- ポリカーボネート(PC)は、樹脂の一般的な特性の通り、耐クリープ特性の高さを確認することができました。
- PLAはこの中では最も耐クリープ特性が低く、比較的ネジが緩みやすい樹脂と言えます。
- 今回の試験では確認していませんが、一般的にクリープは応力が小さくなると進行速度も遅くなる特徴があります。平座金を用いたり、ネジのサイズを下げて数を増やすことで応力を下げることが、クリープ対策に有効と考えられます。
- 今回の試験では確認していませんが、一般的にクリープは温度が高い方が進行が速くなる特徴があります。夏場のネジの緩みには特に注意が必要と考えられます。