3Dプリントでメカロックを作ってみた
軸モノの部品をしっかり固定する方法として、3Dプリントで「メカロック」を作ってみました。機能と作り方をまとめました。
メカロックとは
メカロックとは"クサビ"の原理を利用して摩擦力で軸を他の部品に固定する締結機械部品です。芯をずらさず強固に固定できるメリットがあり、工具のアクセス方向が軸方向となる特徴があります。
モノタロウから説明文を引用します。
内輪と外輪は互いにテーパーで接しておりロックボルトを締め付けることにより、外輪はツバの方向に引き寄せられ、内輪は縮小し軸に押し付けられ外輪は拡大しハブに圧接します。この「押し付け力」により強力な摩擦力が発生し軸とハブを締結します。また、内輪ツバ部にインローを設けることにより軸に対するハブのフレが少なくなります。
文書/画像 引用元:メカロックの種類と特長 【通販モノタロウ】
参考資料
メカロックを作成されている方をTwitterで見かけて、構造を参考にしました。
3Dプリントしたプーリーを3Dプリントしたメカロックで固定してみたら、予想以上にがっちり固定できた上にメカロックに抜きタップつけ忘れたから取れなくなった pic.twitter.com/tixIq09c8L
— ymt-lab (@ymt_lab) 2020年5月23日
3Dプリントによるメカロック構造
通常のメカロックの用途といえば、円筒状の部品と軸を固定する場合が多いです。今回は軸と板材を省スペースで固定するためにメカロック的な構造を考えました。
- 3Dプリント製の内輪と外輪、および締結用のボルト・ナットで構成されています。
- 内輪と外輪の接触面が5度のテーパーです。
- 内輪にスリットを設けています。
ボルト・ナットを締結すると、内輪が軸方向に押し付けられるとともに、テーパーによって軸に押し付けられます。軸との摩擦力が増大し、しっかりと締結できます。ボルト・ナットは板材の固定を兼用しています。
なお、締結による引張荷重をボルト・ナットで受けることで、3Dプリント部品の弱点である積層方向に引張荷重が作用しません。
3Dデータ
こちらから3Dデータを確認できます。
使用例
パワードスーツプロジェクトのペダル(足置き)の軸に採用しました。足首の捻りによる複雑で大きな荷重を受ける部分ですが、SUS板材は軸から抜けません。
ツイートを見た現役ロボコニストの方に、2021年学生ロボコン出場マシンに活用頂きました。圧縮エアを噴射するパイプを精度よく固定するための構造のようです。
この発射パイプはズレると精度は下がるし、回収には失敗するし、発射の反動で移動するしで固定にはかなり苦労した思い出
— フェイク2 (@Fake_robocon) 2021年10月14日
最終的には画像みたいな3Dプリントパーツを旋盤で追加工することで精度を確保した。
こちらのパーツはNii様(@neet2121 )の投稿を参考にさせて頂きました。ありがとうございます。 https://t.co/862lvUPnF9 pic.twitter.com/LWb0tMwxcr
注意点
外輪のクリープによる緩み
外輪は常に引張応力が作用しているため、経年的に伸びてクサビによる締結が緩む恐れがあります。 特にPLAは耐クリープ特性が低く緩みやすいため、PC(ポリカーボネート)やABSの採用を推奨します。 肉厚を上げて引張応力を緩和するのも有効です。
樹脂のクリープ現象はこちらの記事で解説しています。 neet2121.hatenablog.com
組立時
ボルト・ナットをバランス良く締結しないと、内輪の押し込みに偏りが生じます。 対角の順番で、何度か締結を繰り返し、偏りが無いように注意してください。
分解時
押し上げボルトを設けていないため、軸・内輪・外輪が固着して外れない場合があります。 外輪をハンマーで軽く叩いたり、市販のプーラーがあると外しやすいかもしれません。(プーラーを所有しておらず試していません)
まとめ
3Dプリンタを活用したメカロック的な軸と板材の締結構造を提案し、実際に使用してみました。3Dプリントに優しい構造で、省スペースで高強度な締結ができるメリットがあります。ぜひご活用ください。