Adventurer3は、TPUなどの軟質フィラメントの使用は推奨されていません。プリントできる手順や条件を確立し、シール部品の製作に適用しました。
注意事項
ボーデン式の3Dプリンタは、その構造上、エクストルーダやノズルに軟式フィラメントが詰まりやすいです。
公式なスペックではAdventurer3の対応フィラメントにTPUフィラメントは含まれていません。また、TPUフィラメント販売のニュースリリースではAdventurer3に使用できないことが明記されています。
出典:FLASHFORGE/Adventuer3製品ページ 出典:FLASHFORGE/TPUフィラメント販売開始ニュースリリース
よって、Adventurer3でTPUフィラメントを使用した場合、メーカー保証の対象外となる可能性が高いです。
TPUフィラメントとは
TPU(熱可塑性ポリウレタン)はPLAやABSと比べて柔らかく、弾力性のある樹脂です。身近なところでは靴底に使われています。フィラメントメーカーや銘柄によって弾力性(ショア硬さ)が全く異なることが大きな特徴です。
フィラメントの選定
Vignette & Clarityさんの記事を参考にしました。銘柄毎の硬さ・外観・印刷条件(ノズル温度)が非常に分かりやすくまとまっています。印刷条件(ノズル温度)によって造形物の硬さが変わる、というデータに驚きました。 vigne-cla.com
次の理由で、ANYCUBICのTPUフィラメント(白)を購入しました。
事前準備
TPUフィラメントは吸湿しやすいため、フィラメント用の熱風乾燥器が必要です。専用品を購入するか、フードドライヤを改造する場合が多いです。
1kgフィラメントはAdventurer3にセットできないため、何らかのフィラメントスプーラ(ホルダー)を準備します。
フィラメントセット手順
詰まりを防止するために特殊な手順でセットしています。
フィラメントガイドチューブを外したまま、「押出」モードで、TPUフィラメントをチューブから100mm程度飛び出すまで押出します。
ノズルを昇温し、フィラメントを手でヘッドにゆっくり挿入します。ノズルからTPU樹脂が吐出されることを確認します。吐出されない場合は、古い樹脂や炭化物でノズルが詰まっている可能性があり、そのままではプリントできません。ノズルのクリーニングや交換が必要です。
ノズルのヒータを停止し、ノズルから吐出されている余分な樹脂を取り除けばセット完了です。
プリント条件
ノズル温度
TPUフィラメントは、ノズル温度が低すぎるとノズルの抵抗が増え、吐出不良(ノズルかエクストルーダが詰まる)となります。一方でノズル温度が高すぎると、表面がガサガサとした質感になったり、発泡したりします。
ノズルの適温条件を探すために、高さ別に温度を変えたタワーをプリントしました。
- 215℃はノズルが詰まり気味になり、プリントがスカスカになっています。
- 235℃は若干ですが表面がガサガサしています。
以上から、ノズル温度を230℃としました。
印刷速度
詰まりを防止するため、印刷速度を20mm/sに落としています。
リトラクション(巻き戻し)
ボーデン式でTPUフィラメントを扱う場合はリトラクションがほとんど効かないので、0mmに設定しています。
よって断続的なプリントが必要なモデル形状では糸引きが出やすくなります。
ラフト・サポート
TPUはプラットフォームに強く溶着するため、基本的にラフトは不要です。
サポートは使用できますが、モデル本体に溶着しやすいのでモデルとの距離を調整する必要があります。
印刷時の注意点
フィラメントが詰まった場合、そのまま放置すると装置が故障する可能性があります。詰まった場合はすぐにプリントを中止し、詰まりを取り除いてください。
シール部品の製作
シール部品とは、流体機械において流体の漏れを防止する部品です。TPUフィラメントで作った部品を紹介します。
弁体
バルブの弁体です。バルブの詳細はこちらの記事にまとめています。
ガスケット
バルブのガスケットです。面圧が高くなるように設計すると、設計圧力0.9MPaGでもリークしません。
Yパッキン
エアシリンダのピストン用のYパッキンです。ピストンなどの摺動部に使用すると、Oリングよりも摩擦抵抗を小さくできます。NBR(ニトリルゴム)の市販品が安く買えますが、ちょうど良いサイズが無かったので自作しました。市販品よりも若干リーク量は増えますが、エアシリンダ用途では問題なく使用できました。
まとめ
- Adventurer3でもTPUフィラメントを使用できる手順・プリント条件を確立しました。(ただしメーカー保証外)
- TPUフィラメントで弁体・ガスケット・Yパッキンを製作し、有効に機能することを確認しました。