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ものづくりの記録

Fusion360で3Dプリント部品の強度を評価してみた

目的

家庭用3Dプリンタで耐圧部品を安全に製作するため、3Dモデルの段階で強度について評価を行います。Fusion360は非営利用途であれば無料で各種シミュレーションを利用できます。[追記]個人用Fusion360の機能制限の変更があり、各種シミュレーションの使用は有料になりました。これを利用した強度評価の手順をまとめました。対象の部品はバルブケーシングです。

※この記事は親記事「Adventurer3×ABSフィラメントで耐圧部品を作ってみた」から参照されています。

参考資料

Fusion360で利用できるシミュレーションの概要がまとめられています。 cad-kenkyujo.com

そもそも強度評価とは?

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図のように荷重Fで材料を引っ張ったとき、単位面積当たりの荷重を応力(この場合は垂直応力)と言います。 f:id:neet2121:20200425121059p:plain
応力の大きさに対して材料は伸びるか破断します。この特性が材料の強度です。材料の強度を表す特性のうち、最も基本的なものが、このイメージのような静的に(ゆっくりと)引っ張った際の特性です。
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樹脂材料においては硬さや粘り強さによって、応力と伸びの関係にいくつかのパターンがあります。材料の破壊に至る限度を引張強さと定義するか、あるいは降伏応力と定義するか、ケースバイケースです。
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材料の特性として、どのくらいの応力まで許容されるのかが重要です。その判断基準が許容応力です。許容応力は引張強さまたは降伏応力から安全率を割った値です。安全率は各社のノウハウであったり、適用される法規で決まっている場合があります。例えば高圧ガス保安法では、材料の引張強さに対して安全率4とするよう定められています。

強度評価とは、強度計算や応力解析によって予測される設計上の応力が、安全率を考慮した材料の許容応力を下回ることを判定する作業と言えます。

Fusion360による応力解析の手順

3Dモデルによる強度評価シミュレーションはCAE(Computer Aided Engineering)と呼ばれています。その中でも、今回は静的応力解析を適用し、バルブケーシングに生じる応力を予測します。

1. 3Dモデルの作成

Fusion360で3Dプリント用のモデルを作成していれば、そのまま利用することができます。
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2. 静的応力解析の開始

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デザインワークスペースからシミュレーションワークスペースへ切り替えます。
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新規スタディのシミュレーションの種類を選択する画面が立ち上がるので、『静的応力』を選択し、『スタディを作成』ます。

2. 単純化

解析に必要のないボディやフィーチャを無効にして、処理を早めることができます。
 

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『単純化』モードに切り替えます。
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不要なコンポーネントやボディを選択し『除去』します。シミュレーションでモデルを変更しても、デザインワークスペースに戻れば元の形状に戻るので、気にせずどんどん単純化していきます。
 
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今回は、受圧部である3つの部品(ボディ、上下カバー)のみを残して、それ以外を除去しました。単純化が終われば『単純化を終了』します。

3. 材料の選択

材料を選択して安全率のコンター図を表示することができますが、最大引張強度を独自に設定する場合(親記事参照)は、材料の選択は不要です。
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Fusion360で用意されている材料特性を使用する場合、ABSプラスチックでオーバーライドし、安全率を最大引張強度に設定します。Fusion360ではABSプラスチックの最大引張強度は29.6MPaに設定されているようですが、FDM方式3Dプリンタでは積層方向強度はさらに悪化するので注意が必要です。(親記事参照)

4. 拘束条件の設定

最低一か所を固定しておかないと、荷重によってモデルが無限に移動してしまい、解析エラーとなります。
 
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今回は厚肉部で変形が少ないと思われるポート部を固定しました。

5. 荷重条件の設定

耐圧部品であれば設計圧力、強度部材であれば想定される荷重を付加します。
 
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今回は耐圧部品の検証が目的のため、内面の受圧部全てに設計圧力(0.3MPa)を付加しています。

6. 接触条件の設定

モデルが複数のコンポーネントやボディで構成されている場合、それぞれの接触条件(接着、分離、スライドなど)を個別に設定できます。
 
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今回はボディ同士はほとんどスライドしないため、すべて接着させます。『自動接着』を選べば、距離が近いモデルは自動ですべて接着されるため、便利です。

7. メッシュ生成

解析のため3Dモデルをメッシュ(計算格子)に変換します。Fusion360はメッシュ形状や要素数が自動でチューニングされるようです。(本来、正確な解析にはメッシュの設定が重要で、奥が深いのですが、今回はFusion360にお任せします)
 
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『解析』の『メッシュを生成』から生成します。PCの性能によっては処理に時間がかかる場合があります。

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メッシュが切れました。メネジをモデリングしたままになっていますが、形状を単純化したほうが粗いメッシュで済み、計算は早くなります。

8. 解析の実行

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いよいよ解析を実行します。
 
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クラウド上の解析は有料となるため、ローカル上で実行します。PCの性能によっては処理に時間がかかる場合があります。

9. 結果の評価

FDM方式の3Dプリンタ出力品では特に積層方向の引張応力により破壊することが多く、積層方向の引張応力が分かりやすい表示に変更して評価します。
 
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以下の通り設定します。

  • 応力
  • 法線ZZ方向 ※3Dプリンタの積層方向に合わす。
  • 最小値を0にする
  • 応力が小さい範囲を透明化する

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最も大きい積層方向応力は4.6MPaでした。実際はタイロッドボルトの圧縮荷重によりさらに小さくなるはずですが、安全側のため省略しています。

強度の評価・注意点

テストピースの引張試験の結果より、今回適用する出力要領における積層方向の引張強さは18.4MPaでした。安全率4を採用すれば、許容応力は4.6MPaです。 許容応力=発生する応力となり、ギリギリ許容応力を満足している結果でした。

今回、積層方向強度に限定するという方法で、強度の評価方法を相当に単純化しています。3Dプリンタ出力品のように方向によって強度が異なる材料(異方性材料)について解析により正しく強度評価することは本来難しく、今回の手法では斜め方向の応力やせん断応力についての検討が省略されていることに注意してください。実際のモノづくりにおいては、十分な安全率を設定し、実荷重・実圧力を用いた実体強度の評価と組み合わせることが重要です。

まとめ

Fusion360を使って無料で簡単に3Dモデルの強度を評価できました。家庭用3Dプリンタを使ったDIYにCAEを適用することで、強度が必要なメカ部品DIYにもデジタルファブリケーションを広めていけると考えています。