ABSフィラメントのラフト剥がれ対策
※ABSフィラメントの反り対策については、こちらに新しい記事を作成しています。
目的
FLASHFORGE社のAdventurer3でABSフィラメントを使用した際、積層途中のラフト剥がれにハマりました。
推定原因と対策内容、その結果をまとめました。
準備
- 3Dプリンタ(FlashForge/adventurer3) flashforge.co.jp
- ABSフィラメント flashforge.co.jp
- パーツクリーナー www.monotaro.com
- スティックのり
- スタイロフォーム
- 銀マット
ラフト剥がれの状況
予定時間10時間のうち3時間出力したところでラフトが剥がれたため、出力を中止しました。
積層高さ(ラフト除く)は計画26mmのうち6.9mmまで積層済みでした。
A部、B部で最初にラフトが剥がれ、扉を開けて作業していたところ、C部、D部で「パリッ」音とともにさらにラフトが剥がれました。
原因分析
FTA(故障の木解析)で想定される原因を整理します。
対策立案
① モデル位置調整し、ラフト面積を確保する。
ラフト底面の充填率を50%→80%に上げる。
② プラットフォームをパーツクリーナーで脱脂洗浄してから使用する。
③ 断熱材を張り付けて、機内を保温する。
扉側は断熱材取り付けできないため端部にモデル配置しないようにする。
熱電対で温度分布計測を実施する。
④ 出力中は絶対に扉を開放しない。
⑤ 板状の部分に切り欠きを設け、熱応力を緩和する。
⑥ プラットフォームにスティックのりを塗布し、ラフトの付着力を上げる。
温度計測
対策③の保温の効果を確認するため、熱電対で2点間の温度計測を実施しました。
計測条件:
- プラットフォーム温度:100℃
- 昇温開始から8分後に計測
- 計測位置A:プラットフォーム中心、プラットフォーム表面から高さ20mm
- 計測位置B:背面側、プラットフォームY方向MAX時の端部位置
- 計測位置C1:側面左側、プラットフォームX方向MAX時の端部位置
- 計測位置C2:外面に断熱材(スタイロフォーム厚さ30mm)を取り付けた状態にてC位置で計測
- 計測位置C3:内面に断熱材(銀マット)を取り付けた状態にてC位置で計測
計測結果[℃]:
A-B計測:
A: 45.6 ℃
B: 32.4 ℃
ΔT: 13.2 ℃A-C1計測:
A: 42.6 ℃
C1: 37.3 ℃
ΔT: 5.3 ℃A-C2計測(スタイロフォーム追加)
A: 43.7 ℃
C2: 39.8 ℃
ΔT: 3.9 ℃A-C3計測(銀マット追加)
A: 44.1 ℃
C3: 43.5 ℃
ΔT: 0.6 ℃
温度計測結果の考察:
- Adventurer3はベースが前後に動く構造のため、前後方向の温度勾配が大きいです。よって長物をABSで出力する場合は、長手方向を左右に配置したほうがラフト剥がれが起きにくいと考えられます。
- 断熱材、とくに内面への銀マット貼付により壁面付近の温度低下が改善されました。
対策結果
対策①、②、③、④まで実施したところ、2か所でラフト剥がれが再発しました。
対策⑤、⑥を追加するとラフト剥がれを防止することができました。
https://twitter.com/i/status/1168854020045148160
まとめ
Adventurer3にてABSフィラメントを使用した際にラフト剥がれが発生したため、原因分析と各種対策を実施したところ、ラフト剥がれを防止することができました。
薄板長尺構造はラフトを剥がす力が大きくなるため、モデリング段階から熱応力が過剰に発生する構造を避けつつ、ラフトの付着力の向上、造形物の温度低下を防ぐ工夫が有効と考えられます。